非伝統資産向け運用インフラの再検討
非伝統資産(プライベート・マーケット)に対する機関投資家の関心が高まり続ける中、資産運用会社は機関投資家のニーズを満たすために、運用インフラの再検討が必須であるといえます。
December 2024
多くの資産運用会社が非伝統資産への配分を増やす過程において、これらの資産クラスにおける運用関連情報は、非構造化データが多く、標準化されておらず、マニュアル作業が発生することから、その管理が大きな課題となっています。伝統資産のように運用関連情報が構造化された資産クラスと構造化が遅れている非伝統資産が混在するポートフォリオをどのように管理するかという課題は、世界中の資産運用会社が解決策を見いだす過程で苦労を経験しており、頻繁に議論されるテーマとなっています。
2024年5月に開催されたステート・ストリート・グロース・サミットでは、資産運用会社が様々なアセットクラスに対応する運用インフラ機能を構築するため、どのようにオペレーティングモデルを見直しているかについて議論がなされました。各社は機能、サポート、効率性を求めており、提携するパートナーが適切であるかの見極めが行われています。
その一方、様々なチャネルや運用インフラの統合やサポートを行うことも必要であり、これに対応するためには非常に複雑な作業工程や多額の導入コストの発生につながる可能性があります。自社で構築・管理できるものと、提携先の協力を得て既存システムと連携する機能を導入するものについて、随時比較検討が行われています。
非伝統資産をサポートするためのオペレーティングモデルの見直しについて議論が行われた際、その複雑さと関連する各検討事項は最優先課題に挙がるとされました。
「ファンド全体」を見る重要性
運用チームを適切にサポートできるオペレーティングモデルの選定は、当然ながら運用手法ごとに異なります。非伝統資産の保有比率が増加するなか、機関投資家は、伝統資産の保有状況を分析するのと同じように、エクスポージャーの把握・分析をする必要に迫られています。ステート・ストリートが行った第3回「プライベート・マーケット年次調査」の回答者の4分の1が、「ファンド全体」を見られるようになれば、非伝統資産業務に変革がもたらされるとしています。このことからも、機関投資家はポートフォリオ集計ベース、および保有資産別集計ベースで正確かつタイムリーな非伝統資産投資を含むデータを入手するために、従来の枠組みを超えたオペレーティングモデルを構築しようとしていることがみてとれます。
オペレーションのサポート
解決すべき課題は構造上、様々な資産クラスへの対応だけにとどまりません。投資が行われるたびに必要な機能に影響を及ぼすため、オペレーション上の追加的なサポートが必要となります。どのようなソリューションであっても、複雑性を管理し説明できるものであり、かつ複数ベンダーとの提携関係から、より集約化された提携関係への移行が、自社にとっての長期的、かつ適切なオペレーティングモデルであるといえます。
バリュエーション
資産運用会社は透明性が高く、安定的、かつより効率的なバリューエションのプロセスを模索しており、規制によりバリュエーションプロセスが的確に行われていることを示すことが求められています。投資実行後には、ジェネラル・パートナー、バリュエーションモデル、またはその他のソースを利用して、バリュエーションプロセスを実施する能力が必要となります。さらに、伝統資産と非伝統資産の双方を可視化するため、バリュエーションプロセスのガバナンスを強化し、その結果のレビュー、承認を行い、個別ポートフォリオに反映することが求められています。
リスク
運用リスクの把握は運用者にとって常に重要な検討事項であり、非伝統資産投資に関連するリスクの把握も例外ではありません。クレジット投資を例にとると、デフォルト率を完全に把握するためには、流動性が高い資産や流動性が低い資産を含むクレジット・ポートフォリオ全体を見渡す必要があります。また、ダイレクトレンディング・ポートフォリオでは、裏付けになっている借り手やコベナンツ(契約条項)を個別に確認する必要があります。こうしたプロセスは、ポートフォリオに伝統資産、及び非伝統資産の両方が含まれる場合にはより重要性が増し、オペレーティングモデルを設計する上での考慮すべき要素となります。
データ量
資産運用会社が新しいオペレーティングモデルを模索する際に共通して挙げられる課題認識として最も多いものの一つは、必要となる情報(データ)が増大することです。多くの資産運用会社はExcelのワークシートに大量の非構造化データを有していますが、データ量が増大することで、特にアセット・ビューからエンタープライズ・ビューに移行する際に、その管理の難易度が大きく高まると考えられているためです。
これまで当然のように利用されていたExcelやPDF形式でデータを保有し続けることは、長期的、かつ安定的な選択肢でないことは明らかです。複数のソースからのデータの取り込み、検証、保管、アクセスの拡張性をExcelベースで実装することは効率的ではなく、ポートフォリオの脆弱性やオペレーション上のリスクが発生します。さらに、増加の一途であるデータを管理するために人海戦術に頼り続けることは、持続不可能であることは明白です。
ExcelやPDFで管理されているデータを含め、資産運用会社で利用する各種データを一元管理するプラットフォーム・ソリューションが注目されています。これらのデータ・プラットフォームは柔軟性と相互運用性を備えており、魅力的な選択肢となります。
これらのデータ・プラットフォームを活用することによって、運用チームにおいては、手作業からプロセスの自動化への移行による時間の節約、人工知能(AI)活用による分析や処理時間の大幅短縮が期待されます。また、比較や分析の効率化を通じ、詳細な規制要件への迅速かつ容易な対応が可能となることや、全社規模での信頼できる単一ソース利用が実現できるといった点も高く評価されています。